東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1477号 判決 1965年7月19日
東京都杉並区高円寺六丁目七百九十三番地
控訴人
田中直男
右訴訟代理人弁護士
中条政好
東京都杉並区阿佐ヶ谷一丁目七百二十三番地
被控訴人
杉並税務署長
井上紋太郎
右指定代理人
新井且幸
三上正生
千木良志気雄
川元昭典
右当事者間の昭和三十八年(ネ)第一、四七七号所得税更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和二十六年四月三十日控訴人の昭和二十五年分所得税の総所得金額を金五十一万五千円、税額を金十万三千円とした更正処分を取消す。訴訟費用は差戻前の第一、二、三審、差戻後の第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、控訴代理人において「本件更正処分には理由が付されておらず、また、右更正処分に対する再調査請求に対しても被控訴人は応答しないので、控訴人は本件更正処分の理由を知る由がない。このような更正処分は違法であり、その点からも本件更正処分は取り消さるべきである。」と述べ、証拠として当審証人中村長三郎、同井上みよ子の各証言及び当審における控訴本人尋問の結果を援用した外は原判決の事実摘示と同一であるのでこれをここに引用する。
理由
当裁判所は控訴人の請求を理由のないものと認める。
その理由は左記に付加する外は原判決の理由と同一であるので、これをここに引用する(但し原判決十八枚目表九行目に「青果物販売業」とあるを「青果物小売業」と訂正し、同十九枚目裏末行の「そうだとすると」の次に「前記仕入額二百六十八万九百十三円を基礎として右差益率により計算した場合」を挿入する)。
当審証人中村長三郎、同井上みよ子及び当審における控訴本人の各供述中右認定に反する部分は、原判決挙示の証拠に照らし措信できない。
控訴人は、本件更正処分には理由が付されず、再調査請求に対しても応答がないので結局更正処分の理由がわからないが、このような理由不明の更正処分は違法であるから取消さるべきであると主張する。
よつて案ずるに、当時施行の所得税法(昭和二五年法律第七一号による改正後、昭和二九年法律第五二号による改正前)第四六条第七項によると、政府が確定申告書について更正をしたときは、その更正にかかるその年分の総所得金額及び課税総所得金額について同法第九条第一項各号に規定する所得別にその金額を附記してこれを納税義務者に通知することとなつており、更正の理由をも通知すべきものとは規定していない。このことは同法第四六条の二第二項に「政府は、青色申告書について更正をなした場合においては、前条第七項の規定による通知には、同項の規定により附記する事項に代えて、更正の理由を附記しなければならない」と規定していることと対比して明らかなところである。然るところ差戻前の第一審証人清水友次、原審証人上田春也の各証言及び右上田の証言により真正に成立したものと認める乙第一号証を総合すると、被控訴人は、昭和二六年四月二八日、控訴人よりの確定申告にかかる昭和二五年分の総所得金額三十万九千九百三十五円を五十一万五千円と、同課税所得金額二十二万四千九百三十五円を四十三万円と、同所得税額七万七千円を十八万円と夫々更正の上これが金額を付記し控訴人宛に通知したことが認められる(控訴人が同年五月二日右更正処分の通知を受けたことは同人の自認するところである)から、被控訴人のなした本件更正処分の通知は、所得税法の規定に適つており、右更正処分には何ら違法の点は存しないものというべきである。もつとも右更正処分に対する控訴人の再調査請求に対し、被控訴人がこれが決定の通知をなしたことを認め得る証拠はないが、再調査の決定と更正処分とは別個の行政処分であり、且つ本件更正処分の通知に理由を付する必要のないことは前記のとおりであるから、再調査の決定がないことにより仮りに更正処分の理由を知り得ないとしても、これがためさきになされた適法な更正処分が遡つて違法となるものでないことは明らかである。控訴人の右主張は理由がない。
よつて控訴人の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条第一項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 平賀健太 裁判官 加藤隆司 裁判官 安国種彦)